石見銀山と地松を巡る旅in島根県大田市

2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」としてユネスコ世界文化遺産に登録された、島根県大田市にある石見銀山。
江戸時代の雰囲気を残す町並みが人気の観光スポットです。
この街並みを含めた山陰の建築文化においては、「地松」=国産のアカマツやクロマツが多く使われているのをご存知でしょうか?
山陰地方の建築に欠かせない「地松」を巡る旅で、石見銀山とその周辺を訪ねます。
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この記事の目次
石見銀山とは
石見銀山(いわみぎんざん)は、現在の島根県大田市にあり、1526年から1923年の400年年間にわたって多くの銀を産出した銀山です。
豊富な産出量を誇り世界の交易や文化・経済交流に影響を与えながらも、自然環境に配慮した採掘が行われたことなどが評価され世界遺産となりました。
エリアとしては、鉱山遺構のある銀山地区、江戸の街並みが残る大森地区、銀を輸出した港町の温泉津地区に分けられます。
近代になってからは大規模な開発が行われなかったことから、伝統的な鉱山開発の技術跡が数多く残されており、また江戸時代からの鉱山町の街並みがそのまま残っているのが特徴です。
石見銀山の大森町には、赤い色をした石州瓦の家々が立ち並んでいます。
この銀山の開発や精錬には大量の木材が必要となりますが、石見銀山では森林資源を適切に管理しながら利用されたことから、今も石見銀山周辺の山々は、豊かな緑に覆われています。
そんな世界遺産の街並みと森を、旅してみましょう。
■参考:石見銀山遺跡とその文化的景観:http://ginzan.city.ohda.lg.jp/wh/jp/index.html
中国山地は地松の産地
中国地方一帯にまたがる山深い中国山地は、地松の産地として知られています。
中国山地では、古くからたたら製鉄や銀山の開発などが盛んだったため、土木資材や木炭に利用するための木材が伐採されてきました。
そのため、伐採された山に二次林として生えてきた広葉樹や、やせ地でも育つアカマツなどが多くなっているのです。
国内で生産されるアカマツやクロマツの木材のことを一般的に「地松(じまつ)」と呼びます。
全国でのアカマツ・クロマツの素材生産量(伐採される丸太の量)のうち、60%(40万7千立米)が東北地方で生産されていますが、次に多いのが中国地方(9万6千立米)で14%を占め、日本で2番目の地松の産地となっています。
中国地方の中では島根県のアカマツ・クロマツ生産量が最も多く3万7千立米、次に広島県が3万1千立米です。
(平成26年データ・木材統計表より)。
石見銀山にも、地松を使って建てられた建物が多くあります。
そんな地松にも注目しながら旅を続けましょう。
石見銀山の旅:世界遺産センターの建物にも注目
世界遺産・石見銀山の旅でゲストを迎えてくれるのが、「石見銀山世界遺産センター」(島根県大田市大森町イ1597-3 TEL:0854-89-0183)です。
資料や模型、動画などの展示で石見銀山の概要をわかりやすく伝えてくれる施設ですので、石見銀山に来たらまずここで知識や情報をゲットするのがよいでしょう。
施設への入場は無料、一部展示は有料となっています。
ところで、この世界遺産センターですが、木造の建物であり、地松がふんだんに使われています。
入り口を入ったエントランスホールを見上げてみると、力強く組み上げられた圧巻の地松の梁を見ることができます。
周辺地域の製材業者や木材業関係者が協力して、この地松を納めたとのことです。
眺めていると、石見銀山の発展を支えた、この地域の森の存在感が増してきます。
外観もこの地域ならではの石州瓦の赤色が印象的ですので、ぜひ建物にも注目して見てくださいね。
■石見銀山世界遺産センターHPはこちら:http://ginzan.city.ohda.lg.jp/
石見銀山の旅:地松を使った重要文化財「熊谷家住宅」
(画像提供・納材:竹下木材有限会社)
ここからは、石見銀山の中でも歴史的な街並みが保存されている大森地区を旅してみましょう。
大森町にある数々の歴史的な建物の中でも、特に存在感を放っているのが、国指定重要文化財の「熊谷家住宅」(島根県大田市大森町ハ63番地 TEL:0854-89-9003)です。
ここは17世紀より石見銀山の鉱山経営を行っていた大森町内でも有力な商家、熊谷家の屋敷だった建物で、1800年代に建てられました。
広いお屋敷の中には広間や台所、ガラス張りで覗ける地下倉庫などがあり、江戸時代からの家の造りを体感できます。
また、季節に合わせてしつらいを変え、定期的にかまどに火をくべるなど、昔の暮らしが体感できる工夫が凝らされています。
特にご覧いただきたいのが、復元された「台所」です。
屋根を支える大きな地松の梁は、中国山地の山深い所から伐り出されたもので、曲がったままのマツの木を活かす職人技により組み上げられています。
床板も幅広の地松の板で、黒光りして艶やかになっています。
柱は腐りにくいクリの木が使われています。
古材の風合いを出すために内部の多くは塗装されていますが、一本だけ塗られていないヒノキの横架材は、耐震のため後から付け加えられたものということが分かるように、あえて塗装していないそうです。
■熊谷家住宅のHPはこちら:http://kumagai.city.ohda.lg.jp/
石見銀山の旅:おいしいパン屋さん
石見銀山・大森町の街並みの中には、古い建物をリノベーションした店舗も数多くあります。
旅の途中、昼食時やおやつの時間にぜひ立ち寄ってみたいのが、街並みに溶け込むようにたたずむパン屋さん「ベッカライ&コンディトライ ヒダカ」(島根県大田市大森町ハ90−1 TEL:0854-89-0500)です。
本格的なドイツパンの専門店で、プレッツェルなど、ドイツパンらしい歯ごたえがあって美味しい様々なパンが楽しめます。
観光客だけでなく、地域の方々も毎日のパンを買いに来られているようです。
店内のリノベーションされた部分はあたたかみのある明るい木の内装ですが、見上げるとゆるやかなカーブを描く地松の梁は、元のままの黒色で、空間のアクセントになっています。
パン屋さんらしくかわいらしいデザインのお店が、お買い物気分を盛り上げてくれますね。
また、店内にある一枚板のカウンターも地松で作られていて、店内でイートインを利用するのもおすすめです。
あれこれ好きなパンを買って楽しみたいですね!
■ベッカライ&コンディトライ ヒダカfacebook:https://www.facebook.com/bkhidaka/
石見銀山の旅:木造のオペラハウス
(画像提供・納材:竹下木材有限会社)
石見銀山・大森町の街並みには、一見すると気が付かないけれど素敵なスポットがあちこちにあります。
その一つが、”世界一小さなオペラハウス”といわれる「大森座」です。
「大森座」は、旧大森郵便局を改装して2015年にオープンした、100人を収容するオペラハウス。
元々の大森座は別の場所にあった芝居小屋とのことですが、1964年に解体されてしまったそうです。
その往時のにぎわいを復活させるために、旧郵便局の建物を利用して新たに文化活動の拠点としてオープンされました。
建物を外から眺めるだけでも楽しめますが、オペラやコンサートなどのイベントが開催されているようですので、旅の期間中にチャンスがあればぜひ、素敵な建物で音楽を観賞したいものです。
■大森座についてはこちら:中村ブレイス株式会社HP:http://www.nakamura-brace.co.jp/opera
石見銀山の旅:全国に知られる2つの企業
石見銀山大森町には、全国的にも知られる2つの企業があります。
一つは、大森座の復活などを手掛けた「中村ブレイス株式会社」。
1974年に創業した、義手や義足などの義肢装具を製造するメーカーで、その製品は日本全国や世界中でも使用されています。
優れた製品に加えて、その利益を石見銀山のまちづくりに還元されていて、渋沢栄一賞や地域づくり総務大臣表彰、ソーシャル・ビジネス・アワードなどを受賞されています。
もう一つは、アパレル・ライフスタイルブランドの「群言堂」で知られる「株式会社石見銀山生活文化研究所」です。
自然素材や手づくりで
根のある暮らしを楽しむ
ライフスタイルを提案し、全国にショップを展開しています。
大森町には本店のショップがあり、旅の思い出にお買い物やカフェを楽しめます。
また、石見銀山の古民家修復やリノベーションも多く手掛けています。
地域を大切に思う石見銀山の企業や人々によって、美しい景観や生活文化が守られているのだと感じます。
■中村ブレイス株式会社HP:http://www.nakamura-brace.co.jp
■株式会社石見銀山生活文化研究所(群言堂)HP:http://www.gungendo.co.jp
石見銀山の旅:圧巻の石見神楽を観賞!
島根県の郷土芸能といえば神楽(かぐら)。
その系統は大きく「出雲神楽」「隠岐神楽」「石見神楽」に分かれるそうですが、石見銀山周辺では「石見神楽」が継承されています。
豊作祈願などのため神々に奉納する儀式として古くから伝わり、古事記や日本書紀などのエピソードに基づいた演目を舞います。
神楽と聞くと静かなイメージがあるかもしれませんが、石見神楽はきらびやかな衣装で、予想以上に力強く迫力があり圧巻です。
石見神楽は市民の神楽団体がいくつもあり、若者や子どもも参加して、地域の人々の手で受け継がれています。
大森町にある大森町並み交流センターや、大森小学校体育館で公演があり、ワンコインで観賞できます。
また温泉津温泉の龍御前神社でも夜神楽の公演があります。
石見銀山の旅の夜は、ぜひ観賞してみませんか。
■スケジュールや詳細はこちら:
・石見銀山ウォーキングミュージアムHP:http://www.ginzan-wm.jp/iwami-kagura
・石見銀山石見神楽公演(大田市HP):http://www.city.ohda.lg.jp/tag/15495/20219
石見銀山の旅:地松を使った和風のお宿
モリップの旅の疲れを癒しゆったりと過ごすなら、やっぱり木造の旅館がいいですよね。
石見銀山で特におすすめの上質なお宿が、大森町の外れにある「ゆずりは」(島根県大田市大森町ニ3-1 TEL:0845-89-0430)です。
世界遺産の中にあるこのお宿は、新築された木造の純和風の建物。
中には、宴会や団らんをして過ごせるラウンジがあり、高い天井にはやはり地松の梁が見える、格調高い空間です。
客室は洋室と和室があり、アメニティも充実。
お食事は山陰地方の海の幸や山の幸を味わえます。
着物の貸し出しなどさまざまなプランがありますので、旅の予定や目的に合わせてチョイスを。
石見銀山の静かな夜を、木が香るお宿でゆっくりと過ごしてみてはいかがでしょうか。
■ゆずりはHP:http://www.yuzuriha-ginzan.jp/
石見銀山で見つけたこんな木の使い方
石見銀山の大森町では、風情ある街並みを守るために、細かなところで景観づくりの工夫がされていました。
木造の建物が立ち並ぶ中には、やっぱり木のアイテムがほどよく溶け込んで馴染みます。
ユニークだったのは、木製のおしゃれなカバーがかけられた自動販売機。
よく見るとかわいらしいデザインで作り込まれていて、ちょっとレトロな雰囲気です。
また、街灯の柱や美容院の「くるくる」も、木の丸棒でつくられていました。
現在もそこに暮らす人のいる大森町。
世界遺産の美しい景観を守るための、地域の方々の細やかな気遣いや工夫があってこその風景なのですね。
石見銀山の旅では、景観を楽しみながらの散策や心躍る体験、お買い物や食事などをゆっくり味わいながら、随所に見られるまちづくりへの想いや心遣いも探してみてください。
あなたの暮らしを豊かにするヒントが見つかるかもしれません。
石見銀山のそばにある製材所を訪ねて
石見銀山の文化財修復などには地松をはじめ多くの木材が使われていますが、その製材を多く手掛け納材している製材所が、同じ大田市内にありました。
「竹下木材有限会社」は、中国山地のアカマツやクロマツなど、地松を専門的に扱う製材メーカーです。
工場を訪ねると、天然乾燥されているたくさんの地松材ストックや、職人さんが台車で木を挽く場面、モルダーでフローリングなどの製品を美しく仕上げていく様子が見られました。
竹下木材の理念は、中国山地の歴史ある美しき森を後世に残すこと、山陰の地松にこだわり美しき松の世界を伝えること、伝統的な建築工法を支持し大工の美しき技を支えること、とのこと。
地松や中国山地の木材を使った家を建てたい一般の方や、工務店・建築士の方には工場見学も案内しているそうです。
旅の中でチャンスがあれば、製材工場に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
■竹下木材有限会社HP:http://takeshitamokuzai.jp
まとめ:地松をテーマに石見銀山へモリップ!
世界遺産に登録され、一躍有名になった石見銀山。
その歴史や文化を支えていたのは、中国山地の森、そして地域の方々の情熱でした。
じっくりと歩いて見て回りたい観光スポットです。
石見銀山を訪れれば、上質で心豊かな旅が楽しめるでしょう。
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