クリ(栗):知っておきたい日本の木材~その特徴と物語~
日本人なら知っておきたい日本の木材をご紹介するシリーズ。
今回は、甘~くてほくほくの実がおいしい「クリ」の木について。
クリは食料としてはもちろん、木材も古くから建築やさまざまな用途に使われてきました。
耐久性の高さが特徴です。
今回は、普段は目立たない場所で、私たちの暮らしを支えてくれているクリをクローズアップします。
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この記事の目次
あの遺跡にも!縄文時代から使われてきたクリの木材
日本において、クリの木材を使って建てられた建物は、最も古いものでは縄文時代の遺跡から出土しています。
有名なもので言えば、青森県青森市にある三内丸山遺跡があります。
この遺跡のシンボルともなっているのが、当時の様子が復元された巨大な櫓(やぐら)ですが、これには発掘調査の結果から、大きなクリの柱が使われていたことがわかっています。
クリの柱は耐久性を高めるために、なんと表面を焼き焦がす加工までされていたそうです。
また、櫓と並んで特徴ある建物として、大きな茅葺屋根の建物(集会所などに使われていたと考えられています)もありますが、これも太いクリの木材を組み合わせて建てられていました。
ではなぜ、縄文時代の建築にはクリの木材が使われたのでしょうか?
三内丸山遺跡では、集落の周りの森で、食料としてクリが栽培されていたことが知られていますが、クリの木材は腐りにくく丈夫なことから、当時の人たちはそのことを知って建築にもクリを使ったのではないでしょうか。
クリは食べ物にも建築用材にもなる木として、縄文時代から重宝されてきた、日本人と長い付き合いのある木だとうかがえます。
特徴ある甘~いクリの実は世界中で愛されてきた
クリ(Castanea crenata)は、どちらかというと木材よりも「実」に特徴があって、親しみがある方が多いでしょう。
秋になると、イガに包まれた実を拾うクリ拾いが行楽の一つとして人気です。
日本では、甘いクリの実を使ったお菓子が数多くありますよね。
栗きんとんや栗しぼり、栗まんじゅうなど、広い世代によろこばれる和菓子です。
クリがたくさん取れたら、栗の甘露煮や渋皮煮にして保存食に。また、ちょっとしたおやつには甘栗や焼き栗も人気で、コンビニでもむき栗が売られているほど身近な存在です。
クリは世界では北半球に広く分布しているので、海外でも愛されている果実です。
洋菓子ではモンブランがお好きな方も多いのでは?
食用として品種改良されてきたクリは、甘さや大きさを追求して栽培品種になっていますが、野生のクリ(ヤマグリやシバグリ)も日本各地の山に自生しています。
山の中に落ちたクリの実は動物の食べ物にもなるので、動物と人のどちらが先に見つけるか、秋はおいしい実を取り合う競争です。
「桃栗三年柿八年」というように、植えてから比較的早く実りを楽しめるため、畑や庭先にもよく植えられています。
春に咲くクリの花の特徴!独特の香り
クリの木の存在感が増すのは、イガグリを実らせる秋はもちろんですが、花が咲く春も目立ちます。
クリの花は白い綿毛のような小さな花が長く連なり房になっていて、まるで試験管ブラシのようにも見えます。
これは雄花が集まったものです。
また、その花が放つ香りも特徴的で、カルキのようにツーンとしながら甘さも混ざったような独特なもので、苦手な人も多いかもしれません。
シーズンには、クリの花の香りが遠くまで香ってくることもあります。
また、クリの葉は細長く、葉脈の先がそのまま飛び出たようなギザギザが特徴で、クリと同じく里山によく生えているナラやカシとも見分けがつきやすい形です。
樹皮は灰色を帯びて、縦に長い割れ目ができます。
「大きなクリの木の下で♪」の歌があるように、天然の木は大きく成長します。
特徴ある見た目なので、山の中でも存在感がある木ですね。
それでは次に、クリの木材の特徴を見ていきましょう。
線路の枕木にも使われる、耐久性の高いクリの木材
クリの木材は縄文時代からエクステリアに使われてきたように、耐久性がとても高いのが特徴です。
「タンニン」という苦味成分を含んだアクがあるクリの木材は、虫や菌を寄せ付けず、雨水がかかるような過酷な環境でも腐りにくいのです。
そのため、湿気やシロアリの発生しやすい住宅の「土台」部分によく使われて、まさに縁の下の力持ちで日本の住まいを支えてきました。
古民家では水回りにクリの柱が使われていることもあります。
最近では、防腐剤を注入した木材を土台に使うこともありますが、クリは天然の防虫防腐成分が入った優れ物なのです。
また、クリは鉄道の「枕木」にも大量に使われてきました。
現在では、鉄道のレールの下にはコンクリートのブロックが枕木の代わり荷敷かれていますが、今でも時々、主要な鉄道の線路にも一部、クリの木の枕木が遺されているのを見かけます。
コンクリートに混じってがんばっているクリの木を見ると、なんだかちょっと嬉しくなりますね。
最近ではガーデニング用の木材として古い枕木が人気を集めていますが、これがエクステリアに使えるのも、クリ本来の耐久性があってのことでしょう。
クリの木材は、加工しやすく落ち着いた色合い
クリの木材は、家の土台は目に触れることがなく、エクステリアにすると真っ黒に変色するのであまり目立たない存在ですが、内装材として使うとその特徴や風合いを楽しむことができます。
外国産のクリは「チェストナット」と呼ばれ、家具や内装材として重宝されています。
クリ材はやや灰色がかった落ち着きのある色ですが、ほんのり黄色を感じる色味で、マロン色と呼んでもよさそうです。
環孔材という種類のため、年輪ははっきり見えます。
ほどよい硬さで加工はしやすく、狂いも少ないので、木工や家具にも喜ばれる木です。
重厚感がある見た目ですが、ナラほどは硬さや重さがありません。
国内では、建材にできるほどの大きなクリの木は少なくなっていますが、広葉樹の生産がさかんな東北地方では、今でも原木市場でクリの丸太を見ることができます。
また、フローリングメーカーで国産クリをラインナップしているところもあります。
洋風の空間にもよく合うクリは、内装材の選択肢の一つに入れておきたい木材です。
クリの木「名栗」が特徴的でおしゃれ!
クリの木材の使い方としてもう一つ特徴的なのは、名栗(なぐり)という加工を施したものです。
突き鑿(のみ)や手斧(ちょうな)で削ったりはつったままの、凸凹した表情を楽しみます。
数寄屋建築に使われているのをよく見ますが、名栗加工は、古くは鋸(のこぎり)がなかった時代の製材方法でもあります。
いつの時代からかその原初的な加工が、味わいとして好まれるようになったと言われています。
名栗の板はエクステリアとして、門や柵、縁側などの雨が当たる部分によく用いられます。
まさにクリの耐久性と、名栗加工の意匠性をいかした粋な使い方です。
最近では、名栗の板を内装材として使い、照明を組み合わせてその陰影を浮き立たせるデザインも人気で、店舗の内装や住宅のアクセントウォールなどに使われることがあります。
また、フローリングに名栗加工をすると足触りがユニークで気持ちよいものになります。
クリは硬さがあるので、土足で上がる店舗などの床板に、名栗の板を張ることもあります。
私たちの食と住に欠かせないクリの木
おいしい実はもちろんのこと、木材にしても味わえるクリの木。
耐久性を活かして見えないところに、おしゃれな加工をして目に見えるところに、あちこちで活躍しています。
縄文時代からの長いお付き合いは、これからも形を変えて続いていきそうです。
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