ケヤキ(欅):知っておきたい日本の木材~その特徴と物語~
日本人なら知っておきたい日本の木材をご紹介するシリーズ。
今回は、日本の広葉樹の代表格とも言える「ケヤキ」についてその特徴や物語をお伝えします。
社寺仏閣などの建築用材や、家具などの工芸材料としてもよく使われるケヤキ。
都市部では街路樹としてもポピュラーです。
大きく枝を広げる樹形が印象的なケヤキは、日本の暮らしの中でどのように活躍しているのでしょうか?
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この記事の目次
あなたの街にもきっとある!美しいケヤキ並木
ケヤキの木と聞いて、なんとなくその姿が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
ケヤキ(Zelkova serrata)の一目見て分かる特徴は、箒(ほうき)を逆さまにしたような樹形です。
まっすぐ伸びた幹の上の方から枝が出て、のびのびと広がります。
枝下の空間が広くなるため、車や人が通る道路にも街路樹として植えやすいという特徴があります。
そのため、ケヤキは街路樹として並木道に多く植えられ、各地にケヤキ並木があります。
たとえばこんなケヤキ並木が有名です。
●宮城県「定禅寺通り」
“杜の都”
仙台市の「定禅寺通り」のケヤキ並木は、冬には壮大なイルミネーションが飾り付けられ、多くの人の目を楽しませています。
●埼玉県「日本一長いけやき並木」
埼玉県所沢市の国道463号線(浦所バイパス)には、17kmにわたり2,000本以上のケヤキが立ち並んでいて、日本一長いけやき並木になっています。
●東京都「馬場大門のけやき並木」
東京都府中市の「馬場大門のけやき並木」は江戸時代に徳川家康が植えて以来大切に守られているもので、ケヤキ並木としては唯一国の天然記念物に指定されています。
青々とした葉を茂らせるケヤキ並木は、まさに緑のトンネルになって、木陰を求める人々の憩いの場になっています。
巨大になるケヤキの木!「欅番付」とは?
写真:日本一大きいケヤキの木
ケヤキはとても大きく成長する木です。
その迫力ある巨木は、あちこちの町のシンボルツリーとして、大切に保存されているのを見かけます。
また、宮城県、福島県、埼玉県では「県の木」にも選ばれています。
各地にたくさんのケヤキの巨木があるので、なんと「日本欅見立番付」なる全国ランキングがあるほどです!
それによると、日本で一番大きいケヤキの木は山形県東根市にある「東根の大ケヤキ」で、樹齢1,500年、幹周り16m、直径5mという大木です(国指定特別天然記念物)。
現在は小学校の校庭で大切に保全されていますが、一般の人にも開放され、無料で自由に見学することができます。
ド迫力のケヤキに会いに行ってみましょう!
ケヤキの他の特徴としては、ギザギザしていて明るいグリーンの葉っぱ。
落葉広葉樹であり、秋には黄色やオレンジ色に黄葉します。
枝葉の間からほどよく差す木洩れ日が、木の下に集う人を心地よく楽しませます。
また、うろこのようにささくれた樹皮も特徴的です。
清水寺の舞台は、300年のケヤキの木材!
京都の観光名所としてあまりに有名な清水寺は、「清水の舞台」が特徴の一つですよね。
じつはこの舞台を支えている柱は、ケヤキの木ででてきているのをご存知ですか?
巨大な舞台を支えるケヤキの木材は、それぞれが300年を超すような大木です。
力強く林立する柱は、強度や耐久性を発揮するとともに、京都を代表する美観を作り出しています。
しかし、耐久性が高いといっても、木の建築物は永遠に持つものではありません。
国内で300年を超えるようなケヤキの木を大量に調達するのは至難の技。
そこで、清水の舞台を将来修復することを考え、現在、ケヤキの木を京都府内に植林して林業家とともに育てているとのこと。
なんと300年後を見据えた壮大なプロジェクトです。
一代では完成しない林業の息の長さを感じるとともに、それだけケヤキが大切に愛されている木だということもわかります。
ケヤキの木材は特徴的な木目が愛されている
ケヤキを木材にした時に特徴的なのは、その木目です。
ケヤキの語源は
”際立つ”
”美しい”
という意味を持つ「けやけし」から来ているという説もあり、くっきりした木目が印象的です。
茶色~オレンジを帯びた木材は、ケヤキならではのさまざまな模様を見せてくれます。
きれいなカーブを描く年輪もあれば、荒々しく刻まれた年輪も。
また、樹齢の高いケヤキの根元近くには「玉杢」と呼ばれる、写真のような独特の丸い模様が現れることがあります。
この珍しい模様はとても縁起が良いものとされ、大事なところに使う木材として、玉杢のある木は高値で取引されます。
たとえば、相撲部屋の看板には、この玉杢を「勝ち星」に見立てて重宝されます。
また、老舗のお店の看板なども、大きなケヤキの板で作られます。
これはケヤキがとても重たい木材なので、「一度看板を上げたら下ろさない」という意味も込めて縁起を担いでいるそうですよ。
しかし、どんな木目が出るかは製材してみないとわからないものです。
そのため、材木屋さんは十分に目利きをして、時にはギャンブルのような気持ちでケヤキの丸太を買い求めたそうです。
人気のケヤキ丸太は市場でセリ上がり、非常な高値で取引された時代もありました。
往時はケヤキの丸太が盗難に遭うこともあったそうで、
”ケヤキ保険”
なるものがあったとか!?
ケヤキはどうやら、人を惑わせてしまうほど魅力的な木のようです。
ケヤキの木材は家具や太鼓の材料としても活躍
その特徴的で美しい木目を活かして、ケヤキは家具や工芸品の材料として使われます。
ケヤキの木材は表面にオイルを塗ると艶が出て光沢が出ます。
また、拭き漆(漆を薄く塗って木目を際立たせる塗装方法)をかけると、さらにケヤキの木目が際立ち、迫力が増してきます。
木目を活かして、和タンスや座卓などの和家具に使われてきました。
また、大きな木をくりぬいて作るお椀や、お盆などの食器の材料としても、ケヤキの木が使われています。
ケヤキは大きく育つことから、太いケヤキ丸太の中身をくりぬいて皮を張り、和太鼓にすることもあります。
中には人が入れるほど大きな和太鼓もありますよね。
日本人の心に響くあの音色は、ケヤキの木が奏でているのです。
また、お餅つきに使う臼と杵には、適度な重さや安定感が必要なので、ケヤキがよく選ばれています。
その他、洋風のテーブルや椅子などの家具の材料にも使われるなど、幅広く利用されています。
ケヤキを使った空間の特徴は?
ケヤキの木材は、その色合いや木目の特徴から、重厚感と格調高さを感じます。
また、これまで寺院建築や和家具などに使われてきたイメージからも、どちらかというと和風な印象があります。
建築空間としては、とくに寺院建築では、柱など大きな部材を必要とするところにケヤキがよく使われています。
また、お城などに行くと、門や櫓の柱・梁として使われていたり、ケヤキの大きな一枚板でできたゴージャスな扉を見ることができます。
ケヤキは大きく使うと、迫力ある空間になります。
一般の住宅には、ワンポイントで使うことが多いです。
かつては大黒柱として使われ、家のシンボルとなっていました。
また、玄関框や和室の一部など、特に来客や人の目に触れる場所に印象的に使われます。
その他に最近では、その大きさと木目の個性を活かした一枚板テーブルとしても使われます。
一般住宅で使うときは、ケヤキの色や木目を引き立たせるように、他の木や素材とほどよく組み合わせて、アクセントとして用いるのが使いやすいでしょう。
ケヤキの加工は大変!暴れん坊で独特の匂いが特徴
これほど人気のあるケヤキの木ですが、加工するにはとても苦労するのも特徴です。
木にもよりますが、ねじれや反りが起こりやすい、暴れん坊の材質として知られています。
そのため、製材してから何年も寝かせて乾燥させないと、なかなか落ち着いてくれません。
大きな木や精度が求められる用途の場合は、十年以上も乾燥させるそうです!
また、製材するときに独特の(くさ~い)匂いがします。
製品にしてからはまったくそんな匂いはしませんが、材木屋さんが加工するときにはそんな思わぬ苦労があるそうです。
ケヤキのあの美しい木目を楽しむためには、木材を加工する人たちの大変な苦労や長い時間がかけられて、私達の手元に届けられます。
それでも使いたいと思わせる、魅力的な木だということでもあります。
ケヤキの木材は銘木市場などに集まる
ケヤキはまとまって植林や育成がされていないことから、ケヤキ産地として知られる林業地は見当たりません。
山の奥で発見された大木や、社寺境内の木などがあちこちで伐採されて、木材として出荷されてきます。
しかしながら、全国各地で伐採されたケヤキの丸太や製品が集まってくる、特徴ある木材市場があります。
たとえば、岐阜県岐阜市にある「岐阜銘木協同組合」は、昔からケヤキの巨木や一級品が集まる市場として知られています。
特に記念市などでは、目を疑うほど巨大なケヤキの丸太や、貴重な木目のある製品が展示販売されていて必見です!
全国から木材の問屋さんや流通関係の買い手が集まってきますが、見学に来る建築関係者や学生などの姿も見受けられます。
迫力あるケヤキの木材を目の当たりにすれば、建築のアイデアやインスピレーションが湧いてくるでしょう。
機会があれば、目の保養に見るだけでも圧巻の光景です。
■岐阜銘木協同組合HP:https://www.gifu-meiboku.com
まとめ:ケヤキは苦労してでも愛したい日本の広葉樹
樹木としても、木材としても日本人に愛されてきたケヤキ。
一筋縄ではいかない材質でありながらも、その魅力で人を惹きつけて離しません。
伝統的な建築用材として和の文化を支えてきたケヤキは、これからの現代の暮らしでも存在感を放っていくことでしょう。
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