カラマツ:知っておきたい日本の木材~その特徴と物語~
日本人なら知っておきたい日本の木材をご紹介するシリーズ。
今回は、日本で唯一の落葉する針葉樹「カラマツ」をご紹介します。
北海道や信州ではなじみ深いこの木について、どのくらい知っていますか?
実はあなたの身の周りにも、たくさん使われているかも。
その生態や、木材の特徴と用途、カラマツを使った空間がどんなものになるか、ご紹介します。
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この記事の目次
日本で唯一落葉する針葉樹、カラマツ
カラマツ(Larix kaempferi)は日本の固有種であり、日本に自生する針葉樹高木の中で唯一、秋に黄葉し落葉する木です。
落葉するので、ストレートに「落葉松」と書いてカラマツと読むこともあります。
針葉樹と言えば、真冬にクリスマツスリーとして飾られるモミの木を思い浮かべるように、一般的には常緑樹で冬でも緑色の葉を落とさないものですが、このカラマツは秋になると葉が真っ黄色に染まり、並木や森はまるで黄金色にかがやいているようにも見えるのです。
毎年生え変わる葉っぱは輪生し、他の針葉樹と比べてやわらかい感じがして、葉の色も黄緑色~明るいグリーンといった感じです。
針葉樹林の中は暗いイメージがありますが、葉っぱが薄く冬には落葉するため、明るい印象で下草もよく育っているのがカラマツ林の特徴です。
冷涼な気候でも生育することができ、北海道や東北、長野県に多く植林されている木材です。
北原白秋にも歌われたカラマツ
明治生まれの近代日本を代表する詩人・北原白秋(1885- 1942年)も、落葉松のある風景をこんな詩に詠んでいます。
■北原白秋「落葉松」
一
からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。二
からまつの林を出でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。三
からまつの林の奥も
わが通る道はありけり。
霧雨のかかる道なり。
山風のかよふ道なり。『日本現代詩大系 第四巻』(矢野峰人・他編、河出書房・昭和25年10月30日発行)
この詩は、長野県軽井沢に白秋が滞在した時に読んだそうで、軽井沢町には文学碑が設置されています。
カラマツの並木道の情景が目に浮かぶようです。
並木や防風林としてもよく植えられている木材、カラマツ。
白秋にとって、風にそよぐカラマツの、繊細な特徴の立ち姿がさびしげにも、そしてどこか身近であたたかい存在にも映ったかもしれませんね。
上高地の風景をいろどるカラマツ
夏場の観光地、避暑地として大人気の、長野県は上高地。
テレビや雑誌にもよく登場するこの風景の中にも、実はカラマツの森があります。
特に秋は黄葉するため、一目でカラマツの林だとわかりますね。
「上高地旅行プランガイド」によりますと、このように解説されています。
上高地では、中ノ瀬園地からバスターミナルのあいだの梓川左岸(南側)や小梨平に、まとまったカラマツ林があります。その他、梓川沿いの林や、田代湿原など湿地帯のまわりなど、上高地の景色の中にはかなりの率で登場します。植林されたものがほとんどですが、原生林の中や湿原の近くなどには天然のカラマツもあって、雰囲気が違うので見比べてみるとおもしろいです。
見ごろは、他の木の紅葉があらかた終わった10月の末ごろ。朝晩は相当冷え込みます。カラマツが黄葉する時期に上高地に行くなら、防寒対策はしっかりして、「黄金降る景色」を堪能してください。引用元:http://www.kamikochi-guide.net/autumnleaves/karamatsu.html
カラマツは木
材としてだけでなく、信州の風景としても愛されているのが特徴です。
カラマツの木材産地は北海道や東北、長野県
カラマツの育林は歴史が長く、明治時代から各地で造林されてきました。
記録によると、
・明治7年に長野県ではじめて育苗を開始すると同時に、北海道でも信州より種子を取り寄せ、播種を行い、明治12年に長野県で育苗に成功。
明治中期にはカラマツ造林全盛がはじまったそうです。
(参考:http://www.tokachi.pref.hokkaido.lg.jp/ss/rnm/rinmuka/160902rekishi.htm)
また、戦後にも木材生産のために多く植林され、特に冷涼な気候である北海道や東北、長野県で多く植えられました。
平成26年の素材生産量(収穫された丸太の量)の都道府県ランキングを見てみると、日本全体の生産量236万9千立米(立方メートル)のうち、第1位はダントツの北海道で163万9千立米であり、7割近くの国内シェアを占めています。
第2位が岩手県の30万2千立米、第3位が長野県の23万6千立米です。
つづいて、青森県3万6千立米、群馬県3万立米、岐阜県2万8千立米となっています。
平成24年の林野庁統計によると、カラマツ人工林面積は第1位北海道41万6千ha、第2位長野県24万5百ha、第3位岩手県12万3千haです。
(林野庁統計情報を参照)
北海道には、昭和30年代に造成されたカラマツ人工林「パイロットフォレスト」が広がっています。
北海道東部、釧路市から東北に約50km、厚岸湖に注ぎ込む別寒辺牛(べかんべうし)川の上・中流部に位置する国有林のうち、計画的に造成してきた10,778haの森林を「パイロットフォレスト」と呼んでいます。パイロットフォレスト造成以前は、開拓の火入れによる失火等のため、毎年のように発生した山火事により森林は消滅し、永い年月の間、広大な原野として放置されてきました。造成事業には幾多の困難が待ち受けていましたが、持てる造林技術に創意と工夫を加えて困難を克服し、現在は湿原を除く区域のほぼ全域がカラマツ人工林を主体とする森林で占められています。
引用元:http://www.rinya.maff.go.jp/hokkaido/kusiro_fc/pilotforest/index.html
カラマツはこのように、降雪が多く杉や桧の生育に適さない場所でも、力強く育つのが特徴の、雪国の代表的な人工林樹種です。
木材の特徴:つややかさと耐久性
カラマツの木材としての特徴を生み出しているのが豊富に含まれる抽出成分であり、一般的に「ヤニ」と言われています。
カラマツの丸太を製材すると、木材の中に所々ヤニが溜まった「ヤニツボ」が現れることがあります。
このヤニは、触るとべたついて手につくとなかなか取れないほど強力な樹脂で、乾燥するとカチカチの固形物になります。
そのため、時には建築用材として避けられることもあります。
しかし、このヤニがあることで、木材の表面が油分でコーディングされて艶やかに仕上がり、時間が経つほど飴色に経年変化するのです。
また、木の樹脂とは本来、木が生育していくために環境に適応し身を守るためのもの。
カラマツはこのヤニが防腐や防虫の効果を発揮するので、屋外や地中の厳しい環境で使う耐久性の高い土木用材として活躍しているのです。
育った環境や一本一本の木によって、ヤニの量は多かったり少なかったりと個性があります。
日本の製材所や木工所は、このカラマツの性質を見極めてうまく使いこなしてきたので、住宅や家具などに、カラマツはふんだんに使われています。
木材の特徴:強度が高く、ねじれがある
冷涼な厳しい気候で育つカラマツは、マツと名の付くだけあって、杉よりも硬く、粘りのある材質です。
年輪や木目は色が赤みを帯びて濃く、力強い印象を受けます。
カラマツの木材の特徴の一つは、その高い強度にあります。
冷涼で降雪の多い厳しい環境に耐えられるように進化してきたため、硬くて粘り強い材質となっています。
カラマツの林を見ると、杉や桧なら雪の重みで根元が曲がってしまうような積雪の多い場所でも曲りが少なく、まっすぐに立っています。
そのように強度がある一方で、ねじれながら成長するという特徴があり、木材として使うときには乾燥をしっかりしないと曲がったり反ったりしやすいという性質があります。
このねじれも、近年では乾燥技術や製材・木取の方法によって、ねじれを克服する技術も発達しています。
また、木材は人間と似ていて年を重ねるほど材質も安定して暴れたり、ねじれにくくなるという性質があり、樹齢を重ねたカラマツは材質が安定してきます。
時々、天然のカラマツ林から100年を超える天然カラマツ(テンカラ)が収穫されることがありますが、とても重厚感があり落ちついた材質となっていて、高級材として扱われています。
カラマツの成長過程や材質に合わせた技術を使えば、そのよさを最大限に引き出すことができるんですね。
カラマツの木材としての用途は?
カラマツは戦後、とくに建築用材や電柱用材として植林されましたが、時代とともに用途は変わっています。
カラマツの用途別生産量を見てみると、平成25年の統計で製材用115万4千立米、合板用73万3千立米、木材チップ用37万6千立米となっています。
約半分が製材用として使われていることが分かりますが、近年では特にカラマツを使った集成材工場が増えました。
カラマツの強度や粘りなどの特徴をいかして大断面集成材を作ることで、木造で大型建築物を作ることも可能になっています。
合板用材は平成10年には1万6千立米しかありませんでしたが、この15年で大きく伸びていることがわかります。
北海道や東北には国産カラマツを利用する合板工場が増え、近年需要が高まっています。
(「木材需給報告書」を参照)
カラマツの木材を使った空間の特徴は?
写真引用:http://www.karamatsu-tandt-panels.com/1_photo1.html
くっきりした木目と色が特徴のカラマツの柱など構造材は、カントリー調から和風まで様々な空間によく合います。
木目をあまり目立たせたくない場合は、すこしホワイトの塗料を載せると、また違った風合いになります。
また、力強い木目を持つカラマツは、フローリングにするとメリハリのきいた独特の風合いになります。
冬目(晩材)の部分が硬いため、長く使ってこすれていくと、すこし木目が立って年輪が浮き出てくる場合がありますので、木表の方を表面に使うことをおすすめします。
また、その耐久性を活かして外壁材に使うこともあります。
カラマツに含まれる樹脂成分に耐久性があるので、たとえば潮風の当たる海辺の街の外壁などにもよく使われていて、湘南の街などで人気が出ているようです。
さらに塗料を重ねれば、さまざまなカラーバリエーションが楽しめるでしょう。
木材の外壁は、自然を愛するサーファースタイルにぴったりの表情になります。
カラマツぼっくりがかわいいのも特徴!
ちなみに、カラマツは「マツ」と名前が付くように、松ぼっくりのような実がなります。
大きさは、赤松などの松ぼっくりよりも小さい、大きめのビー玉くらいのかわいいサイズ。
しかもよく見ると、まるでバラの花のような形をしているんです!
カラマツ林に行って、この「からまつぼっくり」を拾い集めれば、クラフトの材料としても大活躍しそう。
特徴のあるカラマツの実を、リースの飾りやクリスマスオーナメントにすれば、まるで小さなバラの花束のよう。
実を窓辺や飾り棚に置いておくだけでも何となくおしゃれです。
カラマツにはこんな可愛らしい一面もあるんですね。
からまつぼっくりの楽しみ方を覚えれば、風景、木材、そして実まで、カラマツを余すところなく味わうむことができそうです。
皆さんもカラマツの森に行くとき、足元までよく見て楽しんでくださいね。
まとめ:カラマツは風景と暮らしを作る身近な木
カラマツはこのように、特に北海道や東北、信州などの日本の冷涼な地域ではふるさとの風景であり、また住宅などの暮らしの中や、目に見えない部分でも私たちの暮らしを支えてくれる、日本固有の木です。
皆さんもどこかでカラマツの木材に出会ったら、黄葉したカラマツやその立ち姿を思い浮かべてみてくださいね。
日本の森に思いをはせる時、きっとあなたの暮らしが豊かになるはずです。