銘木「吉野杉」の木材としての特徴とは?
日本三大人工美林の中でも最も古く500年の歴史を持つとされる「吉野杉」。
建築のプロもエンドユーザーも、一度は使ってみたいプレミアムな木の一つです。
なんとなく高級木材のイメージがありますが、その木材としての特徴をまとめて整理してみましょう。
さあ、あなたのお部屋に吉野杉を使うイメージが湧きますか?
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この記事の目次
500年の歴史ある日本三大人工美林・吉野杉
吉野杉とは、奈良県南部に位置する吉野地方の山で育つスギのこと。
吉野といえば桜のイメージがありますが、吉野杉の植林の歴史は古く、およそ500年前、室町時代に始まったとされています。
農業を営むことが難しい険しい山々に点在する吉野の集落では、林業が主な産業になってきました。
山に植林する苗木は、この土地に合った性質を持つ吉野杉の大木から種をとり、実生(みしょう)から育てて山に植えられます。
真っすぐに育つよく手入れされた吉野杉の森は見た目にも美しく、100年や200年を超える人工林も少なくないのが特徴です。
天竜杉、尾鷲桧とならんで、美しい人工林の国内ベスト3である「日本三大人工美林」にも数えられています。
スギのみならず、ヒノキの美林も広がっていて吉野桧と呼ばれています。
節なし、まっすぐ、真ん丸の木を作る方法とは?:吉野杉の特徴
吉野杉は「吉野式」「吉野林業」と呼ばれる独特のスタイルで育てられます。
その最大の特徴は“密植多間伐(みっしょくたかんばつ)”とよばれる植林・育林方法であり、1ヘクタールあたり1万本前後(1m間隔)という、通常の2倍程度の超高密度で苗木を植えます。
このように高密に植えることによって、スギの苗木どうしが競争してまっすぐ育ちます。
また、林の中が暗くなるので、自然に枯れ枝が落ちるようになっています。
このような育て方により、節が少ない吉野杉が作られてきました。
また、枝が偏って付くのを防ぐことにもなるので、断面が真ん丸な真円に近いスギに育ちます。
吉野杉は、木が大きくなるにつれ、木を間引く間伐(かんばつ)を何度も繰り返して、密度を調整して育てていきます。
吉野杉の森は200~250年もの年月をかけて完成すると言われますが、最後の収穫までに、途中の間伐材も商品にすることで林業経営を成り立たせています。
この吉野式の林業は、真っすぐで節がないという建築用材の育成に適していることから、戦後の拡大造林の際には全国でお手本とされました。
現在、50~60年で伐期を迎えた日本各地の人工林は、吉野式をアレンジして1ヘクタールあたり4,000~5,000本くらいの密度で植えられたものです。
100年を超える大径材がゴロゴロ!:吉野杉の特徴
吉野杉は植林の歴史が古いため、100年や200年以上前に人が植えた木も多くあるのが特徴です。
奈良県内には数か所の原木市場がありますが、ここには吉野杉も多く出荷されます。
他の地域でよく見る50~60年生の丸太と比べて、100年を超える大きな吉野杉の丸太がゴロゴロと並ぶ光景はまさに圧巻です。
吉野杉は、全国のスギ(植林木)で最も単価が高いと言われています。
それでは、木が大きいと、何がよいのでしょうか?
まず、太い柱や梁、板などを、継ぎ接ぎせずに一本の木からとることができます。
さらに、大径材からしかとれない、すべての面が柾目になる“4面柾”の柱も取れます。
そのために、吉野杉は希少な銘木として重宝されているのです。
吉野杉がセリにかけられる市場には、木にこだわる製材所が全国から買い付けにやって来ます。
しかし、木が大きい分、伐採したり運ぶのも一苦労です。
吉野地方には、巨大な木を伐採できる林業の技術が受け継がれており、またトラックに積んで運べない山奥の吉野杉は、ヘリコプターで吊り上げて運ぶこともあるのです。
木も技術も、スケールが大きい吉野林業です。
年輪が緻密で、木の大トロ「赤身」が多い!:吉野杉の特徴
(画像提供:川上さぷり:http://yoshinoringyo.jp/suppli)
密植多間伐という施業により、まっすぐで真円、節がない吉野杉を作ることができますが、これのもう一つの効果は、年輪の幅が小さくなり、均一になることです。
密植された林の中は暗く光が少ないため、スギの木の成長スピードはとてもゆっくりになるからです。
年輪が緻密な木は強度が高く、また均一な年輪幅は見た目にも整って美しく見えます。
また、吉野杉の品種の特徴なのでしょうか、その木材は「赤身」の部分の割合が高くなります。
赤身とは、木の中心部にある色の濃い部分で、香りや防虫効果のある成分が豊富に含まれており、外側にある白太部分よりも耐久性に優れています。
いっぽうで、木の中心部にある赤身は節も出やすいため、無節かつ赤身という木材は、は大きな木でないと取れにくい希少な部位とされています。
無節赤身は、いわばマグロでいう「大トロ」の部分が、吉野杉からは取りやすいのです。
また、吉野杉の赤身はピンク色を帯びているため、製材したときに見た目も美しいとされています。
「刻印」でトレーサビリティがわかる
原木市場に並んだ吉野杉や吉野桧を見ると、スタンプのような様々な「刻印」が押されているのがわかります。
これは、その木がどこの山で育ったのか、だれが手入れしたのかがわかるマークなのです。
吉野林業は代々、山主(やまぬし:森林のオーナー)、山守(やまもり:森林の管理人・番頭)、山行(やまいき:作業員・技術者)、という3者の関係で営まれてきました。
山主は山守に森の管理を委託しており、現場で山行が木の世話をします。
丸太に押されている刻印は、山主または山守のものがほとんどですが、原木市場でこれを見れば、どの山主の山のものか、どの山守が伐ったか、ということがわかるのです。
木の品質は、育った山の環境や手入れの具合に左右されるので、刻印を見てその吉野杉の品質を予想できるというわけです。
近年、違法伐採の取り締まりや産地証明のためにトレーサビリティ(出処や生産者、加工者がわかること)が重視されていますが、吉野林業では昔から、木の品質を見極めるために刻印が押されてきたのでした。
産地が明確になっていることも、吉野杉の特徴といえますね。
もとは樽丸用材だった吉野杉は「白線帯」も特徴
今は高級な建築用材として知られる吉野杉ですが、かつては「樽丸(たるまる)」の材料として使われ発展してきました。
樽丸とは、樽(たる)を作るための木のパーツのこと。
断面がカーブになっているこの樽丸をを組み合わせて、樽が作られています。
樽は、江戸時代には上方のお酒を江戸へ輸送するのに欠かせない重要な容器だったため、樽丸も大量の需要がありました。
吉野杉は節もなく年輪が緻密で、お酒が漏れにくいために、樽丸用材として重宝されたのです。
昔は、伐採した吉野杉を山の中で樽丸に加工してから、筏で川に流して運んでいたこともあるようです。
すこしマニアックな話になりますが、実は吉野杉には、樽丸に向いているある特徴があるのです。
それが、白太と赤身の間にある「白線帯(はくせんたい)」という、文字通り白い帯のような所です。
この部分は、木材の中でも水を通しにくいと言われていて、これを含む樽丸は最高級とされています。
白線帯はすべてのスギに出る訳ではなく謎が多い部位ですが、吉野杉にはこれがよく現れるということです。
化粧梁やフローリング、建具にも使える吉野杉
(画像提供:川上さぷり: http://yoshinoringyo.jp/suppli)
樽が金属やポリタンクに取って代わられると、樽丸として使われていた吉野杉の利用は、その特徴を活かした建築用材に転換していきました。
無節、通直、真円という吉野杉は、見た目に美しく、また狂いも少ない材料が取りやすいので、製材所にとっては理想の木なのです。
高度経済成長期には和室の材料として銘木の需要が増したため、吉野杉も高値で取引されました。
現在では、和室の減少とともに吉野杉のマーケットは縮小していますが、それでも優れた材質と豊富な資源量は健在なので、化粧梁や幅広のフローリングなど、洋風住宅の中でも見た目を重視する部分に使われています。
自然素材は好きだけど節は気になる、幅広のフローリングで部屋を広く見せたい、というユーザーに、プレミアムな素材として選ばれています。
また、年輪が緻密で狂いが少ない柾目(まさめ)が取れることから、吉野杉は精度が求められる建具などの材料としても重宝されています。
そして、赤身が多いことから、耐久性や芳香を求める部分にも採用されます。
吉野杉は国産割箸のシェアNo.1!
吉野杉は、奈良県の吉野町や桜井市の製材所で主に加工されています。
多くの製材所が立ち並ぶ中に、割箸工場をよく見かけるのも特徴です。
吉野杉を余すことなく使い切るために、建築用材などを取った後の端材は、割箸に加工されてきました。
吉野杉の割箸は香りがよく、また年輪が緻密なために折れにくく、しっかりとした使い心地です。
一本の割箸の中にいくつの年輪が入っているかで、グレードが厳密に定められています。
吉野の割箸は、実に国産割箸の9割以上のシェアを誇っています。
スギの木材は、そのやさしく甘い香りが食との相性がよく、割箸を始めとして、お酒の枡やお弁当箱、食器など、食卓のシーンによく登場します。
エコで高品質な吉野杉の割箸で、おもてなしの心を演出してみてはいかがでしょうか。
まとめ:吉野杉は日本林業がめざした理想形
大きくまっすぐ、真円で節がない吉野杉は、戦後の日本林業のモデルとなってきた、まさに理想形のスギといえそうです。
これからも100年や200年の吉野杉を育てるためには、50~60年の木を活かして使っていくことも重要です。
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