マツ(松):知っておきたい日本の木材~その特徴と物語~
2017.10.26
日本人なら知っておきたい日本の木材をご紹介するシリーズ。
今回は、日本の風景を形づくる代表的な木、マツについてその特徴や物語をお伝えします。
公園や街路樹、海岸の防風林など、マツの姿は身近なところで見かけますよね。
松ぼっくりを拾って遊んだ経験も多くの方がお持ちではないでしょうか。
そのマツには大きく2つの種類「アカマツ」と「クロマツ」があることをご存知ですか?
マツの生態や用途、その木材が私たちの暮らしの中でどのように活躍しているのかをご紹介します。
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この記事の目次
アカマツとクロマツ
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一口にマツといっても、日本国内には主に「アカマツ(Pinus densiflora)」「クロマツ(Pinus thunbergii)」の2種類のマツが生育していて、それぞれ特徴があります。
アカマツは文字通り樹皮が赤っぽく、主に里山の尾根近くに生えています。
クロマツは黒っぽい樹皮で主に海岸に防風林や防砂林として植えられている風景を見ることができ、まさに「白砂青松」の風景をつくっている木です。
世界遺産にも登録された富士山を望む三保の松原(静岡県)や、世界ジオパークの隠岐島にある「隠岐の黒松」(島根県)などが有名ですね。
クロマツは、潮風にも耐えて砂地でも育つ性質から、風害や塩害を防ぐために海岸で多く植えられました。
本州から九州まで広く分布しています。
アカマツを「雌松」、クロマツを「雄松」と呼ぶこともあります。
国内で育つこれらのマツは、木材としては一般に「地松(じまつ)」と呼ばれて、外国産のものと区別されています。
浮世絵にも描かれたアカマツの生態と特徴とは?
アカマツが生えている風景は、江戸時代の浮世絵にもしばしば登場し、歌川広重の東海道五十三次には、日本各地の山にアカマツの林が見られます。
これはなぜかというと、人口増加により木材の需要が急激に増えた江戸時代、人の住む近くの里山は、燃料や建築材料のためにほとんど木が伐りつくされてはげ山が多かったのだそうです。
しかし、アカマツは他の木が育たないような水分の少ない尾根や砂地でも育つことができる特徴を持つため、アカマツだけが生えた山の風景が江戸時代にはよく見られたと言われています。
アカマツは他の木が生えるような土壌が厚い環境では、かえって病気にかかってしまったり他の木に負けて成長できないのだとか。
よって、適度に人の手が入って地面の落ち葉などが取り除かれたやせ地の方がよく生育するのです。
しかしながら、近年はアカマツ林から燃料用の葉を取ることも少なくなり、アカマツの林は姿を消しつつあります。
松竹梅に門松、マツは縁起がいい常緑樹
このように、マツといえば厳しい環境でも育ち、一年中常緑の葉を付けている強さがあることから、昔からおめでたい木としてさまざまなシンボルとされてきました。
身近な所では、縁起のいい植物の代表格「松竹梅」の一つであり、またお正月に飾られるのは門松です。
マツは神様が宿る木ともされ、年神様を迎えるために玄関先に飾られるのです。
また、能舞台の背景に描かれるのもマツです。
能はもともと神様に捧げる舞として神社の舞台などで演じられていましたが、その神社にご神木としてしばしばマツが植えられていたことから、それが能舞台の背景にモチーフとして取り入れられています。
また、古典模様にも「老松」「若松」「松葉」など、松をデフォルメした模様が多くあり、家紋にもよく使われています。
曲がりくねった幹や尖った葉っぱなど、マツのビジュアル的な特徴は様々なデザインに取り入れられてきました。
マツは、単なる木材ではなく、長年日本人に親しまれてきたシンボリックな木なのですね。
マツの木材産地は東北、信州、山陰地方
アカマツ・クロマツ合計の平成26年の素材生産量(収穫された丸太の量)を見てみると、日本全体の生産量67万4千立米のうち、第1位は岩手県で19万立米、第2位は青森県の10万4千立米、第3位が宮城県の4万9千立米で、上位を東北地方が占めるという特徴があります。
青森県~岩手県にかけての南部地方のアカマツは昔から「南部赤松」と呼ばれるブランド木材になっています。
続いて長野県4万8千立米、福島県4万2千立米、島根県3万7千立米、広島県3万1千立米となっていて、信州と山陰地方も国内の主な産地になっています。
「マツ類」人工林の面積は、第1位が岩手県15万7千ha、第2位福島県8万6千ha、第3位島根県4万9千ha(平成24年)となっています。
(林野庁統計情報を参照)
マツの木材の特徴はその粘り強さ!
(写真提供:竹下木材有限会社:http://www.takeshitamokuzai.jp/)
マツの木材は、ねじれながら成長する特徴があることから、建築用材としては柱などにはあまり使われません
しかし、粘り強さがあるため、家の重さを支える梁や桁などの横架材として使われてきました。
古い民家やお城などの屋根を見ると、曲がったままのマツを上手く利用して屋根の骨組みが造られているのがわかります。
マツの産地である山陰地方では、長押や軒桁など人の目に付く場所にもマツを使う文化があります。
厳しい環境にも耐えて育つマツは、その粘り強さでさまざまな場面で活躍しています。
また、マツは、マツ脂(やに)が取れるように、樹脂を豊富に含んでいるのも特徴です。
このマツ脂が防腐の役目を果たすため、マツの木材は土木用材として、地盤を補強するための杭としても利用され、地中に埋められ数百年も建物を支えている事例があります。
このマツ脂はエネルギーとしても役立ちます。
昔は「松明(たいまつ)」の燃料や樹脂製品の原料としてよく使われました。
また、高い温度で焼き上げる焼き物(器)を作るには、油気が多いマツの薪が必要とされます。
さらにマツの炭は火力があるため、日本刀などの刀鍛冶にも重宝されています。
マツの木材を使った空間の特徴は?
マツの木材は、心材と辺材の色の違いがあまりはっきりせず、全体的に白っぽい印象です。
白く清潔感があるので、お寺の内装などによく使われます。
製品にした後もヤニがにじみ出てくるので、床板などに使うとワックスの代わりになってだんだんと艶が増していく経年美化が楽しめます。
マツ材年数がたつと飴色に変化して味わいと高級感が出てくるという特徴を持ちます。
また、梁材として曲がったままの木材やタイコ挽き(丸みを残したままにする製材方法)の材料を見える部分に使うと、ダイナミックな骨組みが力強い印象を与えます。
曲がった木を組み上げるには熟練の技術が必要ですが、どっしりとした安心感と迫力があります。
マツの弱点として、春や梅雨時に伐採した後の丸太は、カビが付いて青く変色しやすいという課題があります。
これを克服するために、製材メーカーなどでは、秋から冬にかけて水分をあまり吸い上げていない伐り旬の時期に伐った丸太を、手早く製材し乾燥する努力がなされています。
うまく加工すれば、他の樹種にはない艶やかな美しさを持つ白いマツ材を楽しむことができます。
国内で猛威を振るうマツ枯れ問題
近年、国産のマツの木材は枯渇の危機に瀕しています。
原因の一つは、昭和後期頃から国内で猛威を振るっているマツ枯れ病(松くい虫被害)です。
これらの松林に甚大な被害をもたらす松くい虫被害は、「マツノザイセンチュウ」という体長1ミリメートルにも満たない線虫が松の樹体内に入ることで引き起こされます。
その線虫を松から松へ運ぶのが「マツノマダラカミキリ」というカミキリ虫です。
(林野庁HPより引用:http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/matukui.html)
松くい虫被害(マツ材線虫病)による被害材積は、昭和54年度に約243万立方メートルとピークに達したあと減少傾向にあり、平成27年度には約48万立方メートルとピーク時の5分の1程度の水準となっております。
しかしながら、地域によっては、新たな被害の発生が見られるほか、被害が軽微になった地域においても気象要因等によっては再び激しい被害を受けるおそれがあることから、 引き続き被害状況に即応した的確な対策を推進していく必要があります。
(林野庁HPより引用:http://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/matukui.html)
マツノマダラカミキリは外来の虫で、輸入された丸太などに付いて国内に侵入したとされ、抵抗のない日本のマツが被害を受けています。
他にもマツが枯れる原因としては、里山に人の手が入らなくなったことによりマツの生育に適したやせ地といった環境が失われていることもあります。
マツの生態や特徴を理解したうえで、保全していくことが必要になっています。
秋の味覚・松茸は、アカマツ林がないと味わえない
秋の味覚の王様といえば松茸ですよね。
この松茸、実はアカマツの林がないと育たないのをご存知ですか?
松茸は、その名の通りマツの近くに生えるキノコですが、キノコの中でも「菌根菌」という種類で、木の根に付いて養分を与え合い、マツの木と共生しながら育つという特徴があります。
マツタケは、アカマツの根っこがなければ育たない。
つまり、元気に育つアカマツ林があることが松茸を味わうための必要条件なのです。
近年、アカマツ林に人の手が入らなくなり、マツが弱ったりすることで松茸の生える環境が失われてきており、昔なら里山で豊富に採れた松茸が手に入りにくくなっています。
マツの木材や落ち葉などを暮らしの中で適度に利用することが、美味しい秋の味覚をももたらしてくれることにつながるのですね。
まとめ:マツは日本の風景を作ってきた木材
マツ(アカマツ、クロマツ)は厳しい環境でも育ち、日本の里山や海辺の風景を作って来た木です。
また、常緑であることや力強く育つ生命力から、縁起のよい木としてさまざまなモニュメントやデザインとして日本の生活の中に登場してきました。
木材からエネルギー、美味しい味覚まで、私たちの暮らしに欠かせない資源をもたらしてくれる身近な存在として、これからも大切に守り育てていきたい木です。
- 木の物語, 知っておきたい日本の木材