スギ(杉):知っておきたい日本の木材~その特徴と物語~
日本人なら知っておきたい日本の木材をご紹介するシリーズ。
今回は、日本で最も多く植林され、最も身近な木材である「スギ」をご紹介します。
毎年春になると花粉症に悩まされるイメージが定着してしまいましたが、なぜここまで多く日本各地に植林する樹種として選ばれたのか?
そこにはスギという木の特徴と、日本人の暮らしとの深い関わりがありました。
スギの生態や用途、その木材が私たちの暮らしの中でどのように活躍しているのかをご紹介します。
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この記事の目次
日本で最も多く植林された木材、スギ
スギ(Cryptomeria japonica)は日本固有種であり、その植林の歴史は古く、約500年前の室町時代の吉野林業や北山林業発祥までさかのぼります。
戦後の拡大造林でも日本各地で植林された木材で、国内の樹種の中で最も多い植林面積(約447万ha)を誇っています。
日本の国土のじつに約12%にスギが植えられていることになります。
平成26年の素材生産量(収穫された丸太の量)を見てみると、日本全体の生産量1,119万立米のうち、第1位は宮崎県で153万3千立米であり、20年以上連続して全国一位となっています。
第2位は秋田県の107万9千立米、第3位が大分県の78万5千立米です。
続いて熊本県69万4千立米、青森県59万7千立米、岩手県59万6千立米となっていて、九州地方と東北地方で多く生産されています。
スギ人工林の面積は、第1位が秋田県36万7千ha、第2位宮崎県23万9千ha、第3位岩手県20万2千ha(平成24年)となっています。
(林野庁統計情報を参照)
日本中に植えられている、というのがスギの大きな特徴の一つです。
古代ロマン:出雲大社空中神殿に使われたのは巨大なスギ?
縁結びで知られる島根県の出雲大社。
立派な社殿と注連縄が有名ですが、古代にはさらに大きい、高さ40mを超える空中神殿だったのではないかと言われています。
2000年には出雲大社境内から直径約1.35mの巨木を3本束ねて1つの柱とした遺構(鎌倉時代のものと推定)が発掘されましたが、巨大建築を可能にするそのような大きな木が日本にあったのかと、少し古代の森に想像を巡らせてみましょう。
実は、その証拠と思われるものが島根県に残されていました。
島根県大田市にある「三瓶小豆原埋没林」は、昭和58年に偶然に発見された太古の森の遺跡です。
今から約4,000年前縄文時代のスギの巨木群が、火山活動により地中に埋められ、立ち姿のまま保存されていたのでした。
埋もれたスギの大きさは直径2mにも及び、これなら出雲大社の空中神殿も造ることができたのではないかと、太古のロマンを感じさせるものでした。
スギは日本で生育する針葉樹の中でも非常に大きくまっすぐ育つのが特徴の木ですが、この大きさと豊富な木材の資源が、古代の建築を支えたのではないでしょうか。
■参考:三瓶小豆原埋没林公園:http://www.nature-sanbe.jp/azukihara/
なぜご神木にはスギが多いのか?その神秘
神社でしめ縄を張られたスギのご神木は、よく見かける光景ではないでしょうか。
伊勢神宮の参道にもスギの巨木の並木が見られますね。
スギは日本の木の中でも非常に大きく成長し寿命が長いことから、強い生命力を感じられる木です。
古くから大きな木や岩などに神が宿ると考えてきた日本人にとって、スギは神様が宿りやすい木だったのかもしれません。
また、日本最古と言われる大神(おおみわ)神社(奈良県)は、スギと所縁の深い神社です。
大神神社には神木として立派なスギの大木が祭られています。
また、祭神である大物主大神はお酒造りの神様といわれることから、日本各地の酒屋で看板代わりにスギの葉を束ねて店先に吊るす習慣があったそうです。
現在ではスギの葉をボール状にした「杉玉」が、新酒の仕込みのシーズンに酒蔵でよく飾られていますよね。
古くから日本人は、スギの葉にまでもパワーを感じてきたのかもしれません。
スギは木材として利用されるだけでなく、信仰とも深く結びついているのも特徴です。
箸から家まで、スギ材の特徴を活かした多様な用途
建築物のみならず、スギの木材は非常に多くの使い方があります。
古くは弥生時代の水田跡からスギの板が発掘され、農業土木資材として使われていたことがわかります。
古い農機具なども、スギで作られたものがよく蔵から出てきますよね。
また、特徴的な使い方としては「桶」や「樽」があります。
刃物でまっすぐに割りやすいスギの性質を活かして、柾目や板目材のパーツを組み上げて特に吉野杉で桶や樽が作られましたが、これは江戸時代のお酒の運搬で大活躍し、当時の経済を支えました。
今でも古い酒蔵や味噌蔵や醤油蔵では、酵母が棲みついたスギの桶で仕込んでいますよね。
他にも「食」と関わるスギの用途はさまざまで、秋田杉などで作られる「曲げわっぱ」や、お酒を飲む枡、また国内で製造される割箸もその多くが杉です。
ほんのり甘い香りが食べ物の風味を損なわずよく合うので、スギは食のシーンによく登場します。
日本の住文化そして食文化に、スギはなくてはならない素材だったのですね。
ちなみにスギの用途別素材生産量は、製材用782万5千立米、合板用192万2千立米、木材チップ用115万5千立米で、72%が製材用です。
(平成25年「木材需給報告書」を参照)
軽くてまっすぐだから「スギ」その木材の特徴
スギの語源は、「すくすく伸びる」とか「直ぐな木」であると言われています。
幹がまっすぐ成長し、とても大きく成長するのが特徴です。
スギの木材は繊維が真っすぐなので、鉈などでパーンと割って加工しやすいことから、昔からあらゆる用途に使われてきたのでしょう。
薄く割った板はこけら板としてそのまま使われます。
空気を多く含んでいて比重が0.4程度と軽く、傷が付きやすいですが触れるとあたたかみがあるのも特徴です。
その見た目は、心材(赤身)と辺材(白太)の色の差がくっきりしています。
心材の色は品種や地域によって赤茶色やピンク系、中には真っ黒なものなどさまざまです。
心材と辺材が入り混じった板は「源平」と呼ばれます。
心材に含まれる抽出成分は水や虫害に強く、スギの心材(赤身材)は建築において特に耐久性が求められる部分などで重宝されます。
食べ物とも相性がよい、ほのかに甘い芳香があります。
いくつ知っていますか?あなたの身近に○○杉
スギは北海道南部から九州の屋久島まで広い地域で生育しています。
日本にはあまりの多くのスギ産地があり、多種多様な特徴があるため、まるで欧州のワインのように地名を冠したスギのブランドがあります。
みなさんは「●●杉」をいくつご存知ですか?
著名な産地としては、天然林では日本三大美林の「秋田杉」(秋田県)があり、人工林では日本三大人工美林の「吉野杉」(奈良県)、「天竜杉」(静岡県)があります。
「杉は人なり」と言われることもあるほど、品種や育つ環境条件、施業によって同じスギといってもその特徴にかなりの多様性があり、産地名を冠したスギのブランドは相当の数に上ります。
中でも特徴的なものを挙げると、枝打ちを繰り返して非常に通直で細い木を育てる「北山杉」は、製材せず丸太のまま磨丸太として使われる高級銘木で、その原型は一つの株からいくつもの細い幹を伸ばす台杉という特徴的な形をしています。
いっぽう、近年はホームセンターなどでもお手軽にスギの木材を手に入れることもでき、「日本で最も高価な木も安価な木もスギ」であると言われています。
スギのブランドの一例
秋田杉(秋田県)
金山杉(山形県)
気仙杉(宮城県)
八溝杉(栃木県)
山武杉(千葉県)
天竜杉(静岡県)
越後杉(新潟県)
立山杉(富山県)
北山杉(京都府)
吉野杉(奈良県)
熊野杉(三重県)
智頭杉(鳥取県)
魚梁瀬杉(高知県)
鬼頭杉(徳島県)
八女杉・日田杉(大分県)
小国杉(熊本県)
飫肥杉(宮崎県)
屋久杉(鹿児島県)
スギの木材を使った空間の特徴は?
スギ材は、心材と辺材の色の違いがはっきりしているのが特徴で、赤い心材だけを集めた空間と、白太(辺材)だけを揃えた空間とでは同じスギでもイメージが違ってきます。
また、柾目と板目の使い方によってもさまざまに表情を変えます。
年数の若いものは死に節や抜け節が出やすいこともあり、節の有無によっても印象が異なります。
高級和室では四面柾、無地(節がない)、赤身などで材料を揃えることがあり、非常にすっきりした印象になります。
さらに北山丸太のように磨丸太として皮をむいた光沢のある表面を使えばきらびやかで柔らかみがある数寄屋風の雰囲気も出すことができます。
塗装や表面仕上げによってもユニークな表情を見せます。
その柔らかさを利用して表面を削って年輪を浮き立たせる「浮造り(うづくり)」加工は、踏み心地がよく陰影のある床板になり、表面をバーナーで黒く焼いて磨きあげる「焼杉」は耐久性がある外壁材となります。
最近ではカラフルに塗装した材料も開発されていて、スギによる表現は非常にバラエティがあります。
和風からナチュラル、ビンテージなど、どんな空間も演出できるでしょう。
その使い方次第で空間デザインに差が出るのが、木材としてのスギの非常に面白いところです。
まとめ:スギは日本人にとって一番身近な木材
日本固有種のヒノキは、日本建築の礎である高級木材の代名詞として、そして身近な木材として、私たちの暮らしの中で様々な形で活躍してきました。
また、その乙女のようなやさしい木肌と香りが触れる人の心を癒し、愛されてきた木材です。
ヒノキと聞いて、あこがれや癒しをイメージする人も多いのではないでしょうか。
その使い方や関わり方はアイデア次第で無限大とも言えそうですね。
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